- 2020.05.06 Wednesday
誰も言わないので 2
JUGEMテーマ:社会の出来事
(文責:堀内)
緊急事態宣言が発出されて1ヶ月が経過しましたが、生活制限は延長が決められています。ですが、生活していて奇妙なことは、こと日常において、このウイルスの影響を感じる場面はごく少ないということでしょうか。
確かに多くの飲食店が閉められ、または営業制限され、娯楽場の多くに休業要請が出され、モールや公園も閉鎖されて日常生活に不自由な状況にはなっていますが、身近に明らかな感染者はおらず(私のいるマンションも300人ほどいますが、感染者らしい人はいません)。感染症サイトなどで見ると状況は既に危機的なのですが、実感が沸かないために、識者による実は感染は4月がピークでこれから先は終息していく(だから出口戦略を探るべきだ)という議論が説得力を持ってきます。
神戸中央病院では外来患者の2.7%に抗体が確認され、それによる感染者は153万の同市で4万人、現在は5万人ほどいるはずです。同じレートを東京都に当てはめると30万人、大津市では1万3千人の感染者がいることになります。およそ25人に1人、これはうかつにスーパーにも行けません。
しかし、新聞の葬式欄を見て、分かるほどに死者が増えているでしょうか? 確かに一部芸能人や著名人の死が目立つようにはなっていますが、恐怖を感じるほどには増えていない。首都圏以外の地域ではこれがごく常識的な印象だと思います。しかしながら、それはパンデミックとはそういうものという事実があります。
アメリカは自他共に認める世界最大の感染国ですが、5日のNYTの記事によると、発生地であるワシントン、カリフォルニアの両州やパンデミック地であるニューヨークとその周辺は死者が激増していますが、その他の州では例年より少し多い、あるいはほとんど変わらないくらいで留まっており、地方に住む米国民の多くに感染の実感がない様子が伺えます。こうした州では与党の指図で経済活動再開のデモが起きていますが、トランプ大統領のいるワシントンも感染の影響の少ない地域です。
こういう状況では、適切な行動を促すには想像力が必要です。県外車に石を投げるような行動がナンセンスなことは言うまでもありませんが、感染拡大を阻止できなかった地域ではそれこそ阿鼻叫喚の光景が現出します。たまたま地方に住んでいて、SNSで仲間を集めてツーリングやバーベキューをして何もなかったとしても、その経験は誤解を生む以外におそらく何の役にも立ちません。
事実を申し上げますと、安倍首相が緊急事態宣言の延長を記者会見した5月4日に東京都の感染病棟がオーバーフローし、小池知事は新たにホテルなどを借り上げて病床数を900床増やしました。ホテルの病室が本来のそれに及ぶはずはなく、東京都の医療は既に崩壊状態です。次に危ないのが北海道で、ここはもう余裕がありません。患者数が病床数を圧倒した場合、実用的な病床は500キロ南にあります。東北諸県は高度医療の整備が遅れ、仙台以北に本格的な病院がないからです。おそらくは大阪に運ぶことになるでしょう。北海道と関西経済は以前から深い繋がりがあります。
運が良ければ吉村知事はその決断力を評価されると思いますが、私の見る所、すぐに難しい判断を迫られ、「3万人の犠牲を恐れて40万人を殺した愚者」になる可能性もあります。3万人とはバブル崩壊やリーマン危機の時の我が国の自殺者数、40万人とは西浦教授や神戸市立病院の報告から推定される新型コロナの感染死者数です。日本の面積は現在感染爆発しているメガロポリスとほぼ同じです、ここで3万人と40万人を天秤に掛ける判断は正常な人間ならしません。
これまでの議論の変なところは、公表されている感染者数は明らかに少なく、数字だけ見れば我が国は危機といえる状況にはありませんが、日本国民の誰もがこの数字を信じておらず、感染者はより多いものとして政府も国民も行動していたことです。それが被害をある程度喰い止め得たと思いますが、既に実効性を失ったクラスター対策※1が今だに議論されるなど、認識は個人によって大きく異なり、都合の良い情報をつまみ食い※2する傾向もあることから、そろそろ正確な情報を求めても良い時期です。
※1「クラスター対策」 シアトルでの感染でCDCが編み出したCOVID−19対処法。最初の感染者(WA1)と5週間後の感染者(WA2)の間に遺伝子上の強い近親性があったことから、クローズド・コンタクト(濃厚接触者)を追って隔離することで感染拡大をコントロールできるというアメリカの一仮説。ドイツでも当初採られたが、すぐに「即時検査、即時治療」方針に転換している。トランプ政権下で予算削減が進んでいたCDCにとっては対策が低予算で済む分、政府ウケの良い仮説ではあった。
※2「集団免疫」 病原体の感染が集団の70%程度にまで進めば、感染の過程で抗体ができ、ウイルスの伝播が抑制されるので結果的に感染が終息するというイギリス発の議論。政府は何もしなくても良いため、日本でも一部識者に取り上げられた。実際に行えば死体の山を築き、火葬場や死体埋設場が足りなくなり、経済どころか国家自体崩壊することが目に見えているため、これは感染症や種痘の歴史を無視した暴論である。イギリスではジョンソン首相を中心に当初主張されたが、後に首相自身が感染して生死の境をさまよったことから同国でも政策としては放棄された。一時下火になったが、日本でもCOVID−19の変異性の高さから有効なワクチン開発はありえないとし、再び主張する研究者もいる。
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